携帯電話がない時代

今は携帯電話もスマートフォンが主流になってしまって、
電話だか、パソコンだか分からなくなってしまいました。
買い換えてみてもいいかなとは思いますが どうせ使いこなせないし
たぶん今以上(通話かメール)に利用はありえないので今ので充分でしょう。

でも25年前はそんなものもありません。
デパートの営業であちこち回りながら、
よく使う公衆電話の場所はたいてい覚えていました。

以前、内線電話を使う女子社員を眺めながら、
昔を思い出しながら書いた文です。

 

『携帯電話のない時のデートの約束』

 

今は誰しも携帯電話持っていて
簡単に何処でも誰とでもそしていつでも連絡取り合うことが出来、
全くもって便利になったものです。

でも今から25年くらい前、そんな便利な物はありません。
全てが仕事場、自宅そして公衆電話と言う固定された電話機からしか
連絡は取れませんでした。

でも当時はそれが当たり前で何の不自由さも感じませんでした。
例えばこんなことも。

 

「ようごくろうさん、仕事がんばってるみたいだな、味噌の売り上げも伸びてるし、
たまには一緒に昼飯でも食うか?」

デパートで使っているアルバイト学生に声掛けた。

「やったあ、ありがとうございます。それから、売り場は違うんですけど、
知ってる子いるんで連れてっていいですか?」

「いいよ。じゃあこの前行ったことある中華料理屋に先行ってるから、後で来いよ。」

 

バイトが連れてきた子はなかなかかわいい子、
デパートで働くだけあって受け答えもしっかりしていて、愛想もいい。頭も良さそう。

「かわいい子じゃないか、彼女?」

「いえ、違います。同じ大学なだけです。彼女洋菓子売り場にいるんです。
一度おみやげにでもチョコかクッキー買ってやってください。」

それぞれランチ定食を頼んで、他愛も無い事喋りながら一時間が過ぎ、
バイトがトイレに行っている時、誘ってみた。

「今日仕事は何時に終わるの?もし暇なら晩御飯でも食べようか?」

「えっ語馳走してくれるんですか、嬉しい、はい大丈夫です。早番ですから5時です。」

意外とすんなりOK

「じゃあ後で売り場に電話入れるよ。」

「お願いします。」

 

今ならアドレス聞いて、「じゃあとで携帯にメール入れておくから。」で終了。
でも当時そうは行かない。

公衆電話へ行ってまず、お目当てのレストランに電話。
今晩の予約が取れるかを確認する。

首尾よく取れました。

今度は彼女の働くデパートの代表番号に電話、

「地下食品の洋菓子売り場お願いします」

交換台の女性が言う、《お電話お回しします、そのままお待ち下さい。》

そして《お電話ありがとうございます、地下食品洋菓子売り場担当小山と申します》

「恐れ入ります、バイトの中田さんお願いします。」

《少々お待ち下さい。》

デパート食品売り場女子社員小山さん受話器を右手の平で押さえると、

「中田さん、電話よ!」

“私用電話はダメって言ってあるでしょ、”
言いたげに、にらめつける様に、受話器を渡す。

《はい、お電話代わりました、中田です。》

「あー、もしもし先ほどの味噌屋です。」

《はい、どうも先ほどは、ありがとうございました。》

「予約取れました。時間7時で大丈夫ですか?」

《はい大丈夫ですが場所は?》

「7時に地下鉄広尾駅でどうですか?
出口が2箇所ありますから六本木に近い方の出口
改札出た辺りで待ってます。分かりますか?」

“ひょっとしてデートの打ち合わせ?
ったくしようがないわね、これだから若い子はイヤよ、
仕事用の電話でいちゃいちゃ。ちょっと可愛いとこれだよ、
注文の電話が入ったらどうすんの、
仕事にならないじゃないの、早く切りなよ”

年配女子社員の小山さん、ちょっとばかりおかんむり。

それを察してか、バイトの中田さん、

《はい、分かります、》ちょっと合間を置いて

《じゃあ、その見積の件につきましては当社係長が戻りましたら、
その旨伝えておきます、ありがとうございました。失礼します。》

なんて言うもんだから、への字になっていた小山さんの顔、
“なんだ仕事の話か、じゃあしょうがないか、”
なんて元の笑顔に戻るという訳。

公衆電話の受話器を戻しながら、

この子やっぱなかなか頭いいんじゃない、
そう思いながら今日のデートがより楽しみになったりして、、、

 

電話の使い方、応対の仕方、周りへの気配り、
今の携帯ではとてもできない、考えられないちょっと奥深いものがあったりして、

それはそれなりに面白い所がありました。

 

 

 

 

 

 

 

『小松左京』

『小松左京』

 

昨日SF作家の小松左京さんが亡くなりました。
大変残念です。
私の日本での大好きな作家の一人です。

『日本沈没』『首都消失』『さよならジュピター』『復活の日』等等
みんな映画になりましたが、そうでなくても小さな作品で素晴らしい小説がいっぱいあります。

文庫本の『小松左京自薦恐怖小説集』これなんかいいですよね。
SF小説の発想も人並み外れたものがありますが、
女性の描写は天下一品です。

 

こんな大作家が亡くなったのに、3軒回ったどこの本屋も
<小松左京追悼コーナー>を出してないことが意外です。
まだ一日ですから、間に合わないのは解りますが、それらしきビラとか
出してもいいんじゃないかと思います。
JUNNKU堂は近々コーナーを設けるって言ってました。

ファンになったのは、大学1年の時先輩から借りた週刊誌に連載されていた
『見知らぬ明日』を読んでからです。

当時ソ連と中国が国境を挟んでいざこざがあった時分です。
そこに地球外生物がやってきて攻撃を始めるものだから、
ソ連も中国もお互い敵が攻めてきたと勘違いして
両国が戦争を始め出す訳です。
それを取材する日本人ジャーナリストを軸に話が進みます。

ところが地球外生物の火器があまりに強力で歯が立たない。
さてはて地球の明日はどうなっちゃうんだろう———-

なんてストーリーだったと思いますが、
その、<まだ見ぬ明日><見知らぬ明日>っていうのが鮮明に残っていて、
全然内容は違うのですが、ずーーーっと後に書いた私の文のタイトルに使いました。

地球の自転を止めてしまう『夜が明けたら』
人の体と牛の顔を持った『件(くだん)の母』等短編作

タイトルは忘れましたが、
京都のある女性を父と息子が同時に好きになる話、
天然記念物の鳥の餌にされる話。
どこにでも現れる宇宙蠅。

とんでもない発想を緻密な表現力で書き上げる独特の文章は今の作家にはない
スケールの大きさと日本古来の懐かしさみたいなものを感じます。

 

ご冥福をお祈りします。

 

 

 

『花屋のオープニングパーティーで』

味噌はおいしくて、簡単でヘルシー以外に
人の心を繋げると言うか、団欒を提供したり、
本音で気持ちを分かち合える空気を作るみたいな
そんなところがある様な気がします。

 

『花屋のオープニングパーティーで』

「ったく、何なのこのシレッとした冷たい空気は。」
つい一人ごちてしまった。

三十台半ばにして大一番、私としては人生を賭けて打って出た、
赤坂のフラワーショップ、のオープニングパーティーだったのだが、
今一番盛り上がらない。

 三々五々、昔の会社仲間、仕事仲間が二、三人連れでやって来てその時は、
「おめでとう、わー素敵なお店じゃない。」

「凄いオールドローズいっぱい、きれいじゃない、
私大好きこの花。がんばってね。」

 と賑やかなんだけど、いつの間にか仲間同士のひそひそ話しになってしまい、
あながち寒いのは冷房の効きすぎのせいでもない。

 ちょっと前、代理店の男がドンペリを持って現れた時は
「おおっー凄い、じゃあ乾杯!」と一時大いに盛り上がったものの、
その男の自慢気なフランス話に妙に座が白けてしまい、
より一層静かになってしまった。

 それにしても遅いなアイツ。

30分位遅れるとは言ってたものの、かれこれ一時間になる。
田舎の高校時代の同期で同じスポーツサークル。
私はマネージャーだった。

 家が同じ方向でよく一緒に帰った。
背は高くまあ格好いいし、悪くはないなと思ってはいたものの、
二人でラーメン食べる以上の仲にはならなかった。

 久々の上京で母校の大学に顔を出してから来るなんて言っていたのに、
・・・・・・・来た!

相変わらず飄々として一時間遅れに悪びれる風でもなく、
開口一番、

「なんだよ、花屋にしちゃ色気ないなぁもっと若い子いないの。」

まったく「いいの、ここは飲み屋じゃないんだから。」

 そして彼「はい、お土産」とケーキ箱を差し出した。

「なにこれ」蓋を開けてみると、懐かしい香りが広がった。

「味噌じゃない。」

 「そうなんだよ、これがうまいんだ。キュウリに付けて食ってみな。」と、
カップの蓋を開けると、
野菜スティックで味噌をすくって差し出した。

 「おいしい」

 「だろ」

 「うん、おいしい、おいしい」
少し塩辛さはあるものの、甘くてこくがあり、まろやかな口当たりで、
洋風の味に慣れた舌に妙に新鮮。

 「学生の頃よく食べに入った店で味噌もいっぱいあって、
量り売りはカップに入れて売ってくれるんだ」

 香りに誘われてか、一人二人と寄って来た。

 「何、何、それ味噌?かわいい、アイスクリームみたい。」

「うまい」「うんおいしい」

「これって麦みそ?」「なつかしい」

 「おれんちは昔から赤だしみそなんだ。」

「じゃ出身愛知?同じだ」「豆腐の田楽味噌うまいんだ」

 「いや、なんたって味噌は越後だよ、米が違う。」

 「いーーや、信州味噌が一番だよ。」

 「ねえねえ、今度家でみそ汁パーティーしない?」

 「それいいね」

 周りがなんとなくざわついてきて、あちらこちらで笑い声が大きくなった。
名刺を出し合ったり、ビールを注ぎ合ったり、
ドンペリ男までが方言丸出しで大声で喋ってる。

 部屋の温度が上がった。

 そう言えば、アイツはどこへ行っちゃったのかしら・・・・・・

いたいた、この中の一番可愛い子捕まえて、鼻の下伸ばして喋ってる。
しっかり左手に味噌カップ持って。

 そうね、今度私もその店とやらへ行ってみよう。
いい男つかまえて、うまい味噌料理作ってやろう。
こう見えても料理結構得意なんだから。

 

 

 ————-以前私がお呼ばれしたパーティーに味噌をおみやげに
           持って行ったことがあって、そういえばこんなこと
                      あったかなと書いてみました。  

 

『最高のアクセサリー』『3度目の奇跡』

過去のブログの中で比較的<拍手>の多かった文章を二つ選んでみました。

『最高のアクセサリー』

 

「はい、誕生日プレゼント。35歳かしら、もうおじさんね、」

「でもとりあえずおめでとう。」
そう言って彼女白い封筒を手渡した。 

ここは乃木坂に近いとあるクラブ。

会社の2年先輩の叔母に当たる女性がやってると言う、
まそれほど高くは無く、気軽に寄れる店。

彼女を連れて行くのは2回目。

 開けてみると下北沢の劇場のチケット2枚が入っていた。
≪東京乾電池≫の芝居の指定席券だ。

 「あっ、どうもありがとう、へええ、芝居のチケット?」

「そう、結構評判良いみたいよ。この日夜仕事入ってないって言ってたわよね。」

「そうだよ、5時半には上がるよ。」

 「良かったら私を誘って?!」

 「えっ、うん。も、もちろん誘うよ。当たり前じゃん、一緒に行こう。」

「よーかった、嬉しい!」
「違う人と行くって言われたらどーしよう、ってドキドキしてたの」

 この大嘘つき、何がドキドキだよ。
俺が絶対誘うと100%分かっててそう言うんだから、よく言うよ。
一人毒付いた。

 と、いきなり店のママが割り込んできた。

「あーーら、二人して何ごちゃごちゃしてるのかしら?」
「まあ、東京乾電池じゃない、私この劇団好きなのよ。
ねえ、誰と行くの?私と行こう!連れてって!」

 冗談じゃない、誰がこんなおばさんなんかと、

 「私ちょっと、お手洗い。」彼女が出て行ってしまった。

気を悪くしたかな、ちょっと心配。

 ママと二人きりになると、
「ばかね、行く訳ないじゃない、ちょっとからかっただけよ。」

 「でも、あの子凄く良い子よ、手放しちゃダメよ。」

「綺麗だけじゃない、センス良いし頭も良い。
なかなかあんな子いないわよ、かなり年も違うでしょ、
あの子未だ女子大生でしょ。でも二人中々良い線いってるわよ。」

 「仕事柄いろんなカップル見てるし、話したりもするけど、
あそこまで出来た子まずいないわね。
うらやましい、私が男だったら放っとかないね。」

 「いいこと、あなた位の年の人、よく女性連れてくるけど、
勿論奥さんじゃないわよ、それに関して私は良い悪いは言わない。

でもどうせ連れて歩くなら良い女選びなさい。」

 「その連れてる女性を見て、私たちその男性を見極めるから。」

 「どんな立派なスーツ着てロレックスしてても、
連れてる女、見るからにアホ、どんなにスタイル良くても中身ない女、
これだとその男会社ではどんなに偉いか知れないけど、ダメね。

もう体だけじゃんってミエミエ。その男の価値ガタンと下がるわね。」

 「逆にその人がそんなに身なりは大したことなくても、そう、あなたみたいに」

「連れてる女性がセンス良くて、頭も切れて、ユーモアの分かる
しかも気の付く子だったら、それで人一倍可愛いときたら、
その男性の評価抜群に上がるわよ。」

 「言ってみれば最高のアクセサリーよ。」

 「あなた今最高のアクセサリーしてるわ、
あの子に見合う様あんたも仕事、遊び?がんばんなさい。」

「お待たせ!あら二人で何の話ですか。乾電池二人で行かはるんですか?」

 なんでそこで関西弁になるんだよ。

「行かないよ、ママは残念ながらその日は仕事なんだって、ほんと残念。」

 「あーーら、それで仕方なく私と一緒に?嬉しゅうございますこと。」

 

誕生日プレゼントに芝居のチケットもらうことも初めてだし
《よかったら私を誘って》なんて言われたことも、

なんとも新鮮で、いわゆる胸がキュンと締め付けられて熱くなり、
そしてますます彼女に引かれて行く自分を感じていた。

 <もちろん、手放しはしない、アクセサリーなんて、そんなんじゃない。>

<それに仮にどんなダイヤモンドだって敵いはしないさ。>

 

 

 

―――――ほんと、ここまで来ると男の妄想って留まるところを知らない、
って感じかな。中年男のしがない希望?願望?欲望?つまり妄想。

駅に貼られた芝居の広告ポスター見ながら、こんなことあったらなあと、
かなり前にノートに書き込んだものを仕上げてみました。

 

———次は仕事で出張の、新幹線の発車際に思いついたのもです—-

 

『3度目の奇跡』

 そうだよな、取れるわけないよな。何せ夏休み最初の土、日だもの。
宿なんて空いてないよ、無理。

だって明日だよ、しかも観光名所、人気のホテルときたら、、、ま、ダメだろう。
でも一応電話だけしてみるか。

 「えっ空いてる!」

 ついさっきキャンセルが一件、ツインで一部屋なら取れる。
うっそー、ラッキー、

「えっ、はいお願いします。」やったね!!

 ん、でも新幹線がなあ、、、1時間前に行ってホームに並ぶのも嫌だし、、、

恐る恐る窓口で、
「すみません明日なんですけど、はい、2枚。
いえグリーンでなくても、普通で、
えっグリーンは満席、じゃ普通なら空いてるとか?」

“そんな訳ないだろ”て顔で、窓口駅員はボタンを入力して行く。

 画面が現れた。緑のランプが点いた。

「取れますね、10時12分、12号車10番のD、E」
窓口が不思議そうに言った。

「それ下さい!」

 ありゃあ、買えちゃったよ、うそみたい。どうしよう。

ええい、こうなったら男は度胸、
思い切って誘ってみよう。

 

夜の食事の後で切り出した。

 「ところで、明日なんだけど、うん急にゴメン」
「確か空いてるって言ってたよね?」

 「そう、一緒に行かない?」

「前から出張で行くって話してただろ?」

「あー、うんホテル一泊だけど、予約取れたかって?」

「うん何とか、そう最近割と有名なホテル。」

 「いいよ、無理にとは言わないよ。気が向いたら来てくれればいいし、」
「都合悪けりゃ来なくても構わないし」

「僕?僕は仕事あるから、どっちにしたって行かなきゃならないから、うん、」

 「仕事はそんなにかからないから、終わったらあちこち、一緒に行こうよ。」

「天気良さそうだし、暑いけどおもしろいと思うよ。」

 「とにかく新幹線のチケット渡しておくから、」

「うん、取れたよ奇跡的に!」

「直接この時間に列車に乗って来てよ。」

と言って隣りの指定席のチケットを手渡した。

 

 翌日、10時10分、新幹線ひかり112号、
隣りの席は未だ、、、空いたまま。

 他の席は一杯、家族連れやグループ、カップルで満席。
皆笑顔で喋ってる、楽しそう。

 そうだよな、来ないよな、来る訳ないよな、突然だったし、
しかも一泊だし。

ま、しょうがないか、一人仕事して早く帰ろ、
名物の味噌でも買ってさっさと帰って来よっと。

 10時12分定刻、列車は音も無く走り出した。

過ぎ行くホームを眺めながら、ひょっとしてホームにいたりして、
遅れて今にも駆け足で階段登って来たりして、

思わず目を凝らして見渡してみる。

 ある訳、ないない、ふーっと大きなため息をついた。

偶々奇跡的に宿と列車の予約が取れただけ。

世の中そう甘くはないさ。

三度目の奇跡なんて、、、

 

うしろで<コツコツコツッ>足音が止まった。

声がした。

 「すみません、その席空いてます?」

 振り返ると、旅行カバンを手にした彼女がニコニコして立っていた。
チケットを手に。

 「くそっ、やられた」―――でも私の顔には満面の笑み

 

———こんな彼女がいたら、ハラハラ、ドキドキだね。
たまたま遅れそうになって慌てて最寄のドアから飛び乗って
12号車まで歩いて来たのか、はたまたわざと
ハラハラドッキリさせようとそうしたのか、それは分かりません。

 

 

 

 

妄想話p-2

以前ライブドアブログに書いていた文で、長いため一度では載らず
2度に分けて載せていたものを、今回一度で載せてみます。

やはりこの方がわかりやすいし
前のブログがアクセスしにくくなってしまったので、
これからも気に入った文、再度アップして行きます。

 

『言い訳銀行』 

「それで、昨日の夜は何処へ行ってたの。」

朝ごはんの用意を済ませると、自分もテーブルに着くなり、
さりげなく発せられた妻の一言に、
後頭部をがつんと真綿で包んだバットで殴られた様な衝撃が走った。

予期せぬ問いかけに、一瞬目が宙をさまよった。彼女はそれを見逃さなかった。

 「えっ、うん、あー、そのー」言いよどんでいると畳み掛ける様に、
「だから何処へ誰と行ってたかって聞いてるの。うーうーじゃないでしょ」

まずいぞ、これはやばい、知ってるのかな、

会社の後輩の女性と食事して、ついHホテルへ行ってたなんて、
こんな事、口が裂けても言えない。

 何とかうまく言い逃れなくちゃ、

焦ればあせるほど頭の中では色んな地名が大回転で回っている。

 「渋谷」

いけね、彼女との待ち合わせの場所だ。

「へええー渋谷、渋谷の何処?」

バカかお前は、大体渋谷なんて40過ぎた男が行く場所じゃない。

これで半信半疑で問いかけた妻の疑惑が一挙に、ソファーの横に転がってる
バランスボールの如く膨れ上がるのである。

 大体において、妻が夫の動向を尋ねる場合は大まかに三つに分けられる。

 一つ目は何も疑ってはいない。只好奇心だけ、疑惑度0.

二番目、然程気にはしていないがひょっとして、疑惑度20%。

三番目、かなり怪しい何でも疑ってかかる、疑惑度75%。

 一番目二番目はそれほど気にすることもない、ありのまま話せば問題ない。
もしくはさりげなく話題をそらせばいい。

 注意すべきは三番目の疑惑度75%以上の場合である。

これを疑惑度0にまで限りなく近づけるにはかなりのテクニックが必要となる。

 肝心なのは嘘をつかないこと、嘘は突っ込まれると必ずぼろが出る。
つまり嘘をつかないで言い訳をする、これが大事。

 じゃあどうするかって?

先ほどの朝の夫婦の会話に戻ろう。

 彼女の場合はおそらく日ごろの夫の帰宅時間やら何やらで
少し怪しいと睨んでいたのではないか、
すなわち疑惑度50%。

そこへ来て『渋谷』なんて言うもんだから一挙に90%にまで膨れあがったのである。

これからどうするかって?

 まあ言ってしまったのはしようがない。『渋谷』から始めましょうか。

 「うん渋谷、取引先の若いのが今度渋谷フードショウに出来た新しい店見たい、
そう東急の、って言うんで、そこで待ち合わせして、
とりあえず見て、ちょっと試食もしてみたんだよ、
そしたらさ、仕掛けは良いんだけど、味がイマイチってとこか。」

「そりゃあ勿論味噌料理に関しちゃあお前とも行った吉祥寺の
あの店の方がダントツさ、それにそこは渋谷にしては値段が高い。」

 「そうこうしていたら、その会社の部長の、ほらよくゴルフ一緒に行っていただろ、
北川さ、彼から携帯入って、
今から銀座で飯食うから一緒に来いって言うんで、
ええっーと思ったんだけど、とにかく行った訳だ。」

 「勿論その若い方のかれも一緒さ、まあ北川とも久しぶりだったし、
そうしたらなんと、接待の席じゃない、もちろんされる側。」

 「そう銀座の飛雁閣なんったら大した店じゃん。僕なんかが行って邪魔にならない、
聞いたんだけど、大丈夫大丈夫気安い相手だからなんて言うから、
ご馳走になったんだけど、名刺もあんまし持ち合わせがなくて参ったよ」

 話が込み入ってるけど、込み入ってる方が良いのです。

そしてそれを出来る限り具体的に話す、
つまり女性に想像力を働かせちゃ駄目なんだよ。

 そしてここで重要なのは、この話が嘘じゃないこと、本当にあった事、
本当に過去に接待の席にのこのこ着いて行った時の事、

ただし昨日じゃない。

何日か何週か前に実際にあったこと。
それをそのまま何も隠すことはない、何のやましいこともない時の事、
これをありのまま喋ればいいのです。

 後ろめたい昨夜の事ではなく、何のやましい事もない時の話だから、
すらすら話せるでしょう。
そして自分もその時の気分に入り込んじゃうのよ。

そうすれば奥さんだって信じ込むって訳よ。

これが私の言うところの《言い訳銀行預金》

過去に行ったことのある、それでいてかみさんには話してない所、
そしてその状況、誰とどうしてどうなったか、なぜ遅くなったか、
を記憶の定期預金として持っておくこと。これが大事。

 夫婦だからといって何から何まで全てその日にあったことを洗いざらい喋ることはない。

あっこれは使えると思えば話さないでそっと記憶にしまっておけば良い。

そしてそれを引き出したら、ちょっとその内容を膨らませて話せばいい。
聞いてても楽しい様に、これが思いやり。

 ちょっと話は反れるが、
よく言われるのが、夫婦だから何でも話すのが大事。
楽しいこと、辛いこと何でも二人で話し合えば、楽しさも二倍になるってね。

だけど辛い事、嫌なことも二倍になるんだよ。
二人で分かち合えば辛い事は半分ずつ、これは嘘。

 どうして一人の辛さを他人に背負わせるのか?
嫌なことは自分だけで我慢すればいいじゃないか。

かみさんとはいえ人にまで嫌な気分にさせる事はない。

 話が横道に逸れたけど、さてと仕上げ。

いくらがんがん飲んで食べても、中華じゃいいとこ11時でしょ。

妻は言うでしょう「だったらそこでさっさと帰ってくればいいじゃない。」

だけどそうは行かないのが男の社会。
「せっかく北川さんとお食事できたんだから、もう一軒、行きましょう、
歩いて行かれる所に馴染みの店があるから」

当然言うでしょう接待する側としては。

 「僕はもう帰ろうか言ったんだけど、
北川もいいからいいからなんて誘うからついのこのこ」

 「帰ってくればいいじゃないって?そうはいかないよ。
ご馳走になっておきながらじゃあはいさようならは出来ないでしょう」

 「まあ銀座にしては大衆的っていうか、クラブじゃなくてスナック?
アジア女性もたくさんいてさ、カラオケで大盛り上がりさ。

僕?勿論歌いますよ。サザンでもキンキでも」

 「ったくしょうがないわね、でも電話くらい出来るでしょ、メールでも」

 「いや、気がついて慌ててしたんだよ、でも地下は繋がらないんだよ、ごめん。」

 「・・・・・・・・・・・・」
「さっさと食べて早く会社行きなさい、遅れるわよ。もーーう」

 こうなればしめたもの、一件落着。
膨らんでいた疑惑度90%は20%に格下げ。

 

言い訳バンクもさるものながら、行く場所大事だね。
まあその人の年にもよるけど、大抵の場合『銀座』って言っておけばまず大丈夫だね。

 女は銀座って言葉に対してはちょっと身構える所があってやや一目置くんだな。

この人銀座で飲んだり、食べたりするんだ。
つまり銀座は高い、高級だって思ってるんだな。

 銀座の夜の女性とはそう簡単に仲良くはなれない、
まあ男として銀座で遊ぶくらいはしょうがないか、と妻は考える。

自分の金にしろ人の金にしろ銀座で遊べる位甲斐性が出来たんだ、と考える。
その裏をかくんだな。

 勿論『言い訳銀行』大事です。色々な定期預金あるにこしたことはない。

 そして
「じゃあ今度私もその店、飛雁閣連れてって  、必ずよ」

安くはない金利を逆に払う羽目になることは覚悟しなくてはならない。

 

 (これはフィクションです。東急さん、飛雁閣さんごめんなさい。)

 ―――なんてね、自分ながらうまく書けた物語だなとは思いますが。

こんなことで、隠し通せる訳がない。
次回は全てを見通すしたたかな女性目線で書いてみます。

 

妄想話 P-1

久々男と女の妄想話を載せてみました。
今度は少々長くても一回で載せられそうです。
そうとう前になりますか、雨の夕方、
止まっている配達車を眺めながら話を膨らませてみました。

 

『優しい男』

あら又来てる。美雪の彼氏が車でお迎えよ。
雨が降ると決まってしかも1時間半もかけて迎えに来てるのよ。
よっぽど惚れてるんだね、ラブラブで羨ましいこと。


 私はこの店――今流行のセレクトショップ、のアルバイト46歳、
主人を事故で亡くして以来一人で子供二人を育ててるけなげな未亡人。

今は休憩に出てるこの店の店長の美雪さん、
40は過ぎているんだけど、若々しくてどう見ても20台後半って感じかな。
女性の私から見てもなかなかチャーミングで明るくて
スリムでも出ている所は出て、メリハリの利いた体をしている.

ショートカットがお似合いで、えくぼが可愛い、人当たりは最高。
彼氏がべた惚れなのも分かる気がする。

一緒に住み始めて4年って言ってたわ。子供はいなくて、籍も入れてはいないらしい。
コンピューター関係の会社を経営している彼氏はバツイチ。

前の奥さんと子供二人には養育費を毎月払っていると言う。彼も大変ね。
でも会社は順調で、最近又関連会社を又一つ立ち上げそれもうまく行っているらしい。

 何でも6年程前、クラス会で既に結婚していた彼と美雪さんが偶然再会。
以来何回も会って食事したり飲んだりしている内に仲良くなってしまい
彼氏奥さん子供と別れて正式離婚、二人で同棲して4年。
雨が降ると今でも車でお迎え、もう30分も待ってるのよ。

 私もあんな彼氏ほしい。夫が仕事中の事故で死亡。
公務員だったので経済的には困らないけど、やはり女手一人で子供を育てていくのは並大抵じゃない。

 結婚―――したいとは思うけど、なかなかいい男っていない。
そうね<優しい人>がいいわ。


 でも<優しい>って何かしら?
ああして遠くからでもいつでも迎えに来てくれる彼、
優しいには違いないけど、でもよく出来るわね。

何かよほど後ろめたい事あったりして。
いやだわ中年女はすぐそういう風に考える、良くない。純粋に彼女が好きなのね。
それで彼女美雪は満足なのかしら?

一緒に暮らして、朝は駅まで送ってくれて、早く帰ったらご飯用意して待っててくれて、
女冥利に尽きるわね。うーらやまし。

でも籍入れないし、子供作らないし、もうじき42よ、彼女子供欲しいって言っていたし、
なんでもっと早くに作らなかったのかしら。

やっぱ別れた奥さんとの子供の事があるのかな?
小学生の男の子、両親の離婚が原因で引きこもりになってしまい登校拒否してるんだって、
それも困るわね。 彼も会ったりして色々話もしてるんだけど、どうもうまく行ってないみたい。

多分に責任感じてるね、俺のせいだってね。
だから子供作って自分達だけ幸せになることに罪悪感?感じてるんだ。
勝手な事しておいて、いまさら別れた子供が心配なんてね。

自分が惚れた女と一緒にいたくて、前の女房とは一方的に別れておいて、
残した子供達とも仲良くしたい、それは無理よ、両方うまく行く訳ないのにね。

別れた女房子供たちに優しくすればする程、美雪に悪いなって思うんだよ。
美雪に優しくするのはその後ろめたさの裏返しなんじゃないかな。

だったら離婚なんかしなきゃいいのに、私だったら愛人でいいわ。
変に気を使って一緒にいてくれても返って迷惑よ、こちらだって気使うじゃない、何かと。

 だったら前の家族の事はキッパリ片付けて、
もう別れたんだから後どうなろうが知った事か、お前らはお前らでうまくやれよ、
と開き直るしかないのよ。


子供たちにとっては十分悪い男になってしまったんだから、
「くっそう、俺たちをこんな辛い目に合わせやがって、自分勝手な奴、お前なんか死んじまえ。」

子供たちから憎まれ恨まれてもそれを甘んじて受け入れる覚悟がなきゃ、
今更物分りの良い優しい父親ぶったってダメダメ.

子供たちだっていずれ分かるわよ、ああ父さんは母さんより好きな人が出来たんだ、
我慢して一緒に住む事より好きな人と居る方を選らんだんだ、だから別れたんだ。
でも僕らのことは考えてなかったんだ。

自分勝手な奴さ、しょうがねえ、たちの悪い親に生まれちまったよ。
でも僕等はお母さんの味方さ、母さんを悲しませる様なことはしないさ、
なんて子供達が考える様になるのをーーーなるかな?
待つしかないさ。

お前らが不幸で居る間自分たちも幸せにはならないよ、て言うのはどうみてもおかしい。
それに付き合わされる美雪がいい迷惑jだよ

自分らが幸せになるために出した結論なんだから幸せにならなきゃダメじゃん。
でなきゃ何で自分たちが犠牲になったのか子供たちにだって分からないでしょ。

望みうる最高に幸せな人生を送りたい、そのためにベストを尽くす、それが当たり前なのに、
適当に妥協して生きるのなんて最低。

 美雪を選んで一緒に暮らす事を決めたんだから、
ちゃんと結婚して、籍も入れ、子供を作ってしっかりした家庭を築いて行くのが筋って言うものじゃない。

 そう言う風に女を引っ張って行くのが<男の優しさ>なんじゃないかな。
車でのお迎えはどうでもいいのよ。

さあーーー私を迎えに来る男はいないし、雨の中一人で帰ろうっと。

そうだ今デパート行けば、惣菜なんか半額よ。
よーし、ヒレカツでも買って、ついでにサラダも。
近くの味噌屋で買った信州白味噌あるから、おいしい味噌汁作ろうっと。


そう最近はばかにフレンチっぽいおかずは作るくせに、
味噌汁はインスタントで済ましちゃうって家庭が増えてるってTVでやっていたけど、
あれはおかしいわね。 まるで逆よ。

味噌汁が作れない主婦なんているの?ばっかじゃない、一番簡単でおいしいんじゃない。

なんつったって日本人は味噌汁よ、体にも良いし直ぐ作れるし、
家なんて味噌汁ないと子供達がっかりするもの。
聞いた話じゃ、最近話題の放射能にも味噌がいいって言うじゃない。

なんだかんだ言っても二人の子供達うまく育ってくれたもの味噌汁のおかげ。
他に大したおかずなくても野菜たっぷり具沢山の味噌汁作ったりすればちょっとしたおかずよ。

合わせみそにして味変えてみたりしてもすると子ども達大喜びよ。
残り物の茄子油で炒めて味噌ちょっと甘くしてかけてみたりもするわ。

なにせ私働いてて忙しいんだから手の込んだ料理なかなか作れないのよね。

 だけど味噌汁は欠かしたことはない、これが愛情よ。
だから子供も素直に育ってくれた。

なまじ気取った横文字の肉やらバターいっぱい使った料理作って、
インスタント味噌汁飲まして平気でいられる主婦の感覚が分からないわね。

だから自分勝手なわがままな子供になっちゃうのよ。
 もーっと若い主婦たちがこれからどんどんおいしい味噌汁作って子供たちに食べさせるようになれば

やさしく、素直で、元気で、頭の良い子が育ち、日本の将来も明るくなるって言うもの。

 あはっ、私ってまるで教育評論家みたい。

 あっ店長帰ってきた、さあ本当に帰ろーっと。

 

 

——–教育評論家と言えば、
最近めっぽう人気の『おぎまま』こと尾木さん
昔からよく店に来て下さいます。

 

 

 

妄想話

最近検索してみると味噌と放射能についての記載がとても多くなったので、 それは他に任せるとして、しばらく遠ざかっていたアンチ味噌話を 復活させます。 これは味噌屋のブログじゃない、なんて前によく言われましたが、 男と女の話、妄想話気に入ってくれる人もいるので続けます。

お待たせしました。

今までの『味噌おやじのブログ』から、『独り言』に名前が変わりました。

まだ新しいHPに慣れてないので、ブログがUPされていません。

 

味噌の話はHPの本文に載せて、ブログの方へは真面目な話

もしくは、例によって個人的な妄想話を書いて行きます。

 

いずれ、私の父3代目当社社長、土平錠次の残した写真が山のように

あるので、おいおいUPして行くつもりです。

――――35年前のアフガニスタン、パキスタン

(ソ連が侵攻する前のシルクロード、アルカイダが破壊する前の

バーミヤンの遺跡などなど)や

33年前のインドネシア、コタキナバル(最近日本の商社がリゾート開発)

40年前の香港等、旅行と写真が大好きだった父の遺作を公開します。

 

 

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明治30年創業の味噌屋が美味しい味噌とみそ料理を紹介