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みそオヤジの独り言

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『壁の穴』

<ミャーオー、ミャーオー>
店に帰って来ると、ちょうどベンチシートの裏側、
壁の後ろから猫の鳴き声、しかも子猫。
「おい、猫鳴いてるぞ、この奥」
 
「はい、そうなんです。昼はキッチンの天井裏で鳴いていたんですが、
歩いてて落っこちたみたいなんです。よく平気ですよね、
それにこんな狭い所じゃ親猫も助けられないですよね。」
 
ちょうどうちと隣のブティックの間が10cm位お互いの壁の間に隙間がある。
その隙間に天井裏から落ちたらしい。
 
親猫がくわえて上ることもできないしましてや子猫が独自で這い上がることも
全くもって不可能。今は元気に鳴いていてもその内放っておけば、
そうだよ、必ず死んでしまう。間違いなく。
参ったな。
 
「しょうがねえな、穴開けるぞ。ちょっと手伝え」
ベンチシートを手前に引き出し、泣き声する当りにカッターナイフを差し込む。
カチッ刃が折れた。結構堅い、何度か刺して引いて少しずつ切れてきた。
10cm四方の穴を開けてみる。
が居ない。
 
どうももっと右らしい。1メートル右に又穴を開ける、やはり居ない。
間に柱があって手が入っていかない。泣き声は柱の向こうだ。
相変わらず鳴き続いている、が心なし弱って来ているみたい。
じゃあこの間しかない。三つ目の穴を開ける。
 
<ミャーオー>声が響いた。
「ここだ、お前手小さいからこの穴から突っ込んでみろ」
「きゃあ、いました!ちっちゃい」
「そのまま、引っ張り出せ」
 
女性スタッフの小さな手の上で、まだ目も開かない子猫が震えている。
<ミヤーオー、ミヤーオー>柄に似合わずデカイ声で鳴いている。
「ようし、じゃあミルクだ」
 
牛乳をティッシュに含ませて口に当ててやる、
が、吸おうともしない。水でもダメ。
相変わらず震えながら<ミヤア、ミヤアー>鳴くばかり。
「親猫を呼んでんじゃない?」
 
それではと、味噌の空ダンボールに入れて、店の裏、
人気のない空き地に置いてみる。
子猫は声張り上げて鳴いているものの親猫現れる気配も無い。
 
「どーするよ、もうかれこれ一時間、親来ねーぜ」
やっぱ死んじゃうのかな。
 
スタッフの一人が言った。
「分かりました、友達に一人獣医やってるのがいます。
国分寺ですけど電話してみます。」
夜10時過ぎで迷惑な話ではあるけど仕方ない。
 
「連絡とれました。猫持って来れば預かってくれるそうです。
これから帰る途中置いてきます。」
「そうか、すまんな、よろしく言ってくれ。」
 
一週間が過ぎた。
「そういえば、この前の子猫どうした、聞いてみたか?」
「はい、昨日連絡がありました。さすが獣医ですね、
暫くすると元気になって、
そうしたら里親が見つかって、もらわれて行ったそうです。
元気にしてると思いますよ、よかったです。」
 
ほんと人騒がせな猫だよ、ヤレヤレ。
おかげで、シートをずらすと壁の下の方に
ガムテープで貼った四角い穴が三つ並んでいる。
 
―――これは現在使っているリーフレットに載せている話です。何年か前の実話です。
 

2020-06-29 11:15:16

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「エピソード―8」

《味噌に乾杯p-2》
 
『ラベンダー』
 
「今度、北海道にラベンダーを見に行きませんか。」
 
「今が一番いい時期で、見渡す限りにラベンダーが咲き誇って、
正に花で織り成す刺繍といったところかな。」
 
<行ってみたーい、きれいだろうな。>
 
そもそもその人と食事をするようになったのは、
ゴルフ練習場でフォームを直してもらったのがきっかけで、
一緒に食事をして、その後も何度も誘われたのだ。
30過ぎかな、結構かっこういい。
 
学生時代から付合っている彼が転勤で大阪に行ってしまったので
なかなか会う機会がなくなってしまった。
悪いなあと思いながらもおいしい食事に誘われると断れない。
でも食事のその後はなしと決めていた。
 
最初の食事は、六本木のフランス料理。
「じゃ、あなたと、ぼくの見知らぬ明日に、乾杯!」
 
<なんてきざな>とは思ったものの、
「お酒は、とりあえず前菜までは、このシャンパンで、
サーモンの香草焼きにはロワールの白のプイィフィメ、」
 
「そして羊料理には、赤、ボルドーのシャトーラグランジェか、
同じくメドックのポーイヤックあたりにしましょうか。」
なんて分かった風な口のきき方。
 
しかしまんざら嘘でもない。おいしいワイン、料理にぴったり合う。
イタリア料理の後には、消化に良いからとグラッパを勧めてくれたりもした。
 
話も上手、思わず身を乗り出して聞いたり、
吹き出して笑ったりたり、確かに楽しい。
さりげなくエスコートしてくれて、彼にはない気配りがある。
それがなんとも心地よい。
食事の後は必ず家の近くまで送ると言ってきかない。 
 
でも、いつもご馳走になってばかりじゃ気がひけるので、私が誘った。
学生時代からよく遊びに来ていたこの中央線の街は人で溢れていた。
 
店までの道すがらこう誘われたのだ。
<北海道か、いいだろうな、でも富良野一泊!>
店内は女性客でいっぱいだった。
「へぇー味噌なの、ロールキャベツのスープの味を選べって?
うーん赤味噌、白味噌、僕の母は関西だからよく甘い白味噌使ってたな。
おもしろいね、おいしそう。」
 
「昔さ、学生時代よく皆で鍋に色んな者物入れて味噌と一緒に煮て、
わいわい騒ぎながら 、、、、   」
 
話を聞いているうちに急に彼のこと思い出してしまった。
「北海道さ、やっぱ行けない。ごめんね。」
 
今度の週末久しぶりに大阪行こう。
彼のきたないアパート掃除して、晩御飯一緒に食べよ。
そうだここで松葉味噌買って行って、ブイヤベース作ってやろう。
 
ワインはーーーーやっぱ白かな、でもカリフォルニア産。
 
―――そうです、これも30年くらい前にリーフレットに載せた文章です。
懐かしいです、これの続編もあるんです。一緒にUPします。

2020-06-24 09:20:44

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「エピソード―7」

―――前に『ラベンダー(見知らぬ明日)』で
あえなく北海道旅行を断られてしまったゴルフ男の
苦し紛れの言い訳を紹介すると言いました。
少し間が空きましたが、
彼が熱く語ってくれました。
まあ聞いてやってください。
 
 
『女性を口説けなかった男の独り言』
 
<あっそうか、いや参ったな。まさに家庭的というか、
食の原点みたいな店だ。>
良い店だし、料理もおいしい。
しかしこの店では女性を口説けない。
 
先ず雰囲気が明るすぎる。料理がシンプル。
そして現実感が溢れている。
通りが見える。入り口から客が入るのが見えてしまう。
当然二人だけの世界は作れない。
 
女性を口説くとしたら、理想は夜景が美しい高層ビルの50階。
料理はメニューを読んだだけで舌がもつれそうなフランス料理。
豊潤な香りのワイン、量は少ないが
こってりとボリュウム感のある料理。
内容の混んだ料理ほどベター。
薄暗い店内、静かな音楽。
 
何より大切なのは、現実感の無さ、プラス一種の興奮感。
高層ビルの上というのは人をそれだけで、
興奮状態にすると言われている。
つまり現実から切り離して二人だけの世界にしてしまう。
これが基本条件。
 
当然それだけで当惑してしまう相手もいる。
それはそれとして、どんどん会話でリラックスさせ
ゆったりした雰囲気を作ってしまう。
ユーモア、ギャグをちりばめた自分の体験談、これが大事。
相手が身を乗り出して、「ねえそれでそれで、」
ときたらしめたもの。
 
他人の話はタブー、誰それさんがね、お父さんが、兄が、、、
これはNG最低、とにかく自分の話をすること。
二人で来ているのに、どうして他人の話をしなくちゃいけないのか。
 
ややもすると自分の親戚兄弟友人知人の自慢話を得意げに
喋る人がいるけど、最低。
これは一番相手を白けさせる。
「そうね、すごい。その人はね、であんたは何なの。」
 
些細なことでも己の考え、行動、体験を話すこと。
やや大風呂敷を広げてもgood。
「うっそー」「そんなことありー?」
「そうそれはオーバーだけどね」
「なあんだ、でもやるじゃん」
 
食べる行為は自分をさらけ出すこと。
自分の本性を相手に見せること、
無防備になること。そこが一番のポイント。
つまり相手はそれを無意識の状態で望んでいる訳で、
だからこそ食事に来たんだから、普段とは違う
中身の濃い話になろうと言うもの。
 
そしてここで食事というのは、アペリティフ、
前菜に始まって、魚、肉、
そしてスウィーツ、エスプレッソ、
さらには食後酒まであるのが望ましい。
 
食べるために来たのだけど、本当はそれだけじゃない。
二人だけの共通の時間を過ごしながら、
しかもお互いの本性をそれらしく、さらしながら、
いかに相手の本音を引き出すか、
意識の底を探り合いながら、、、
 
古い話だけど、
湾岸戦争の時の、スカッドミサイルとパトリヨットミサイルの
相互入り乱れての撃ち合いみたいな、
いかに自分を認めさせるか、相手の本意を知るか。
そうか、そう言うか。だったらこう返してみるか。
 
上面の話はいらない、本音を言わせること、探り出すこと、
<どうしようか、ええい、ここまで来たんだから全部話しちゃえ>
そして相手の本音にさりげなく、傷つかない程度に
メスを入れてみる。
「そうは言っても本当のところはこうなんじゃないの?」
<えっ、うそっ私そんなこと思ってもみないのに、
でももしかしたら、そうかも。>
お互いの距離が近づき、二人きりの時間と空間に浸る。
 
視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、手、足、指、唇、目、瞳、耳、
喉、胃袋、頭脳、全てを駆使した壮絶なるバトルである。
そこにこそ人生の大きな楽しみの極致がある
と言っても過言ではない。
 
空腹を満たしたい本能、それが満たされたら
次は自ずと、性欲。
ここに口説きの力量が問われる。
 
一緒にご飯食べたい、食べることによって自分の裸を見せる。
これはとりもなおさず全ての私を見せてもOKよ、
と言うサインなので、
無論本人は自覚意識がないかも知れないが、
潜在意識にはあると考えて良いだろう。
 
デザートを食べながら、
さーてと次は行きつけのショットバーで軽く一杯と、そして、、、
お腹は一杯、頭の中は次の作戦で一杯、
こんな夜ってそう何時もいつもあるもんじゃない。
こんな事で悩む自分にガンバレと言ってあげよう。
 
 
だからして食事して、
あー美味しかった、ごちそうさま。じゃあね、バイバイ。
では、へたくそ、どじ、間抜けと言われても仕方がないのだ。
相手はその気で来ているのに
無意識の意識を目覚めさすことができなかったのだから、
反省してもっと女性のことを勉強しなさい、
と言うことかな。
 
とまあこんなセオリーがあるのだがどこをどう間違えたか
ついポロッと≪ラベンダー≫言ってしまったのが運の尽き。
 
そう現実ここは明るーい味噌レストラン
なんにしても、この店は開けッぴろげ、オープンすぎる。
ちょっとここでは雰囲気的に難しいこれ以上突っ込んだ話は無理!
勿論彼氏がいる、であろうこの女性を無理矢理口説こうとか
そんな気はさらさら無い。(下心が全く無いとは言えないけど)
 
一緒に楽しい時間を過ごせたらいいな、
美しい景色で一緒に感動できればいいな、とか。
美味しい料理で愉快に飲んで喋ってもっとお互い親しくなれれば、
軽いノリで誘ってはみたものの、
ひょっとして、、、、、
 
けど、、、、、、、、
味噌の話から逆に彼氏を思い出させてしまったみたい。
完敗!
墓穴を掘るとはこのことか。
まだまだ修行がたりないか。
 
―――――若干彼は<吉行淳之介>に傾倒しているみたい。
口説きの力量をもっと身につけた彼の告白、次に期待しよう。
 
―――とまあ何と懐かしい、今とは何かズレがありますが。

2020-06-24 09:20:12

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「エピソード―6」

『ジョギングの楽しみ』


いけね、雨降って来ちまったよ。

そこはかとなく沈丁花の香りが漂ってくる秋の夕暮れ時。

毎週休みの月曜日の夕方、自宅から甲州街道、久我山病院、
寺町通り、甲州街道と、約6kmのジョギングを10年続けている。

まあ30分位は大丈夫だと思って走り出して2500m位、
寺町の裏側辺りまで来たら、ポツリポツリ雨粒。
本降りになる前に早く帰ろう。

病院の手前を左に曲がってショートカットだ。
小道に入って、暫くして、後ろから自転車が近づいて来た様だった。

“チリンチリン”小さなベルが鳴る。
狭い道を左によけながら走る。

道は一本。何時まで経っても、自転車は追い抜いて行かない。
あれ、おかしいな。曲がる道はないし、
もうとっくに追い抜いてもいい筈なのに。

直ぐ後ろでチリンチリン鳴らして、タイヤの音までしてたのに。

思わず振り向いた。
何も誰もいない。
引き返したのかな、まいいか。
そのま走り続けた。

雨は上がっていた。気がつくと右手に中央高速らしいものが見える。
見えるということは、、、やや明るくなった。

もうそろそろ暗くなっても良い頃なのに、逆に明るくなっている。
みるみる明るくなってまるで真昼だ。

民家の塀に沿って小道に入った筈なのに
周りは背の高い夏草が生い茂って家らしき物はない。

小さい頃よく行った、そう蓼科の山荘から見晴台に向かう小道みたいだ。
ヒマワリが咲いていてトンボも飛んでいる。

あれーーーーここはどこだ、おかしいぞ、
呼吸が乱れた、心臓がドキドキした。

明らかにおかしい。こんな筈はない。
どーーしたんだろう。スピードを上げた。
先方にお寺らしい屋根が見えた。

いつの間にか本堂らしき建物の前に出ていた。左手に鐘楼がある。
手水場の後ろから女の子が現れた。

「ドキッ、」
「あれっ、ひょっとして、、、、久しぶり。あれから何処行ってたの?」

以前内でバイトしてて、ふらっといなくなったあの佐賀のお寺の娘さんだ、
お父さんから手紙頂いた、あの娘だ、思わず近づいて行こうとしたが、
彼女表情が険しい、いつも笑っていたのに。

「来ちゃいけない、早く、早く、走って、走って。右手の門から外に出て!」
「えっ、何、何?」
「ボスの来る所じゃないから早く外に出て!」
にらみつける様に私を促した。

訳も分からず、言われるまま早足に門の外に出た。
あれっ、ここはいつもの寺町通りだ。辺りは暗い、真っ暗だ。

前からライトを点けたバスが近づいてくる。
いつもの、マスクをした運転手だ。
が、よく見ると、マスクをしているのは運転手じゃない、
白衣を来た若い男だ。

「気が付かれた様ですね。」


後で聞いたら、そのおばさん、自転車に乗って買い物の帰り、
道が狭いので、ベルを鳴らして追い抜こうとしたら、
前を走っていた私が、いきなりふらっと倒れたらしい。

慌てて家に帰りご主人と息子さんを連れて
この病院まで運んでくれた、と言う。
ふうん、お陰で九死に一生を得た訳だ。

と言うことは、あのお寺の彼女、
ぼくをあの世からこちらへこの世に生き帰らせてくれたんだ。
それでこちらへ来ちゃいけない、って怖い顔して言ったんだ。

でももう一度会いたいな。


なーんてね、、、
ジョギングの楽しみの一つは、こんなんに色々空想できること、なんせ40分は長いから。


―――これ(話)は本邦初公開です、もう今は走っていませんが10年位前までは毎月曜に走ってました。何回も転んでケガしまして夜のジョギング禁止令が出ました。  

2020-06-19 11:18:47

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「エピソード―5」

《味噌に乾杯p-4》

『女子学生会館』

<あれ、こんな所に女子学生会館がある。
おっかしいな3年間ずーっとこの道通ってるのにどうして気が付かなかったんだろう>
と思いつつ公園に通じる小さな商店街を車で通り抜けた。 
そしてその日の午後4時、一人のアルバイトの面接をした。
「へええ、公園通り三丁目て言うと、いつも通る道だ。あの辺に女子学生会館あるよね。朝通ったんだ。」
「はい、その学生会館に住んでいます。」
「へえー、偶然だねー。あんな所にあったなんて知らなかった。今朝初めて気が付いたんだよ」

明るく、快活で物怖じしない元気さが気に入って、次の日から働いてもらうことにした。
仕事の覚えも早く、「いらっしゃいませ!」とにかくよく声が出る。
対応もはきはきして、お客とも笑いながら会話が弾んでいる。若いのに珍しい。

「この味噌少し貰っていいですか。みそ汁にして味見てみたいんです。」
とにかく味噌に興味があるらしい。
そしてお客にも「この味噌おいしいですよ。豚汁にしてみたんですがすごく合います。」 

「かわいい子入ったね。明るくて良い子だ。」お客の受けは実に良い。
夜見るからだろうか、肌の色が白く透き通っている。しかし化粧っ気は全然ない。ショートカットで笑うと
えくぼができる。手がきれい。すらっとしてよくTVのコマーシャルに出てくる手よりきれいな位だ。
ある時、食器を手渡しして思わず触ったことがある。どきっとした。
「随分冷たい手だね。」
「はい、でもその分ハートは熱いんです。」笑いながら応えた。

面接で聞いたことがある。
「どうして、味噌屋で働く気になったの?」
「家が佐賀の小さなお寺で昔から味噌造ってて好きだったから。
でもここには佐賀の味噌を置いてないので残念。美味しいのに、今度置いて下さい。」
「お寺の娘さんとは、珍しいね。」なんでも古くからあって、由緒あるお寺らしい。
シフトは必ず夜だけ。昼は学校があって、けっこう宿題なんかも多いらしい。
「土、日たまに昼はできない?」聞いても、
笑いながら「だめなんです」

そして必ず何も持たないで店にやってくる。
「あれ、カバンとか、ハンドバッグ持って来ないの?」
「はいっ、近いからこれだけあればいいんです。」とジーパンのポケットから出した100円玉を見せた。
近くても電車に乗る訳だし、普通年頃の女の子なら、せめてポーチ位下げてくるのに、不思議な子だ。
仕事が終わると10時までに帰らなくっちゃ、と飛ぶように走って帰った。 

数ヶ月が過ぎて3月も終わりの頃、
「今度のお給料、暫く旅行に出るので、実家に送って下さい。また帰ってきたら仕事させて下さい。」
何時帰ってくるともはっきり言わないで、そのまま居なくなった。

給料は現金封筒に入れて、実家のお父さん宛に出した。
1週間して、封書が届いた。佐賀からだった。 

<突然の現金封筒に驚いています。どういう経緯で娘にお金を届けて下さったのか、
アルバイト代と書いてありましたが、いつから働いていたのか、いつまでいたのか、
多分何かの間違いかと思います。>
と言うような事が達筆な筆書きで記してあった。

そして最後には、「家の娘は2年前事故で亡くなりました。」と。

うっそー、そんなあ、じゃあ彼女は、、、嘘そんな訳は絶対ない。あんな元気な子が、...幽霊?

住職であるお父さんは、彼女が亡くなって以来、夜10時には必ずお経を上げていると言う。 そう言えば思い当たる節も、
そう必ず夜しか働かない。しかも10時には必ず帰る。財布も持ってない、かばんも。異常に色が白い。 

そして更にもう一つ確かなことがある。
彼女の面接の朝以来、毎朝晩その前を通って来た公園通り3丁目の女子学生会館が、
彼女が居なくなったその日から見当たらない。
確かこの辺だったと、何回見てもない。
遂に車から降りて、商店の人に聞いた。

「ああ、あったよ昔は、でも2年くらい前かな、事故かなんかあってから、学生入んなくなって、 取り壊して違うビル建ってるよ。」 
「..........」

又帰って来ると言ってた。ひょっとしてそうなるかも知れない。
いいよ、帰って来いよ、元気な声聞きたいよ。そうだ佐賀の味噌、仕入れてみようかな。

どこかで彼女の笑い声が聞こえてきそうな
........、そして公園の桜が満開になった。

――――過去のリーフレットで一番受けた文章です。「えーーっこれって本当の話ですか!?」
「はい、半分は本当です、後半は創作です!」
この続きの話も読んで下さい。 

2020-06-19 11:06:57

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「エピソード―4」

《味噌に乾杯p-3》
 
『花屋のオープニングパーティーで』
 
「ったく、何なのこのシレッとした冷たい空気は。」
つい一人ごちてしまった。
 
三十台半ばにして大一番、私としては人生を賭けて打って出た、
赤坂のフラワーショップ、のオープニングパーティーだったのだが、
今一番盛り上がらない。
 
三々五々、会社仲間、仕事仲間が二、三人連れでやって来てその時は、
「おめでとう、わー素敵なお店じゃない。」
「凄いオールドローズいっぱいきれいじゃない、
私大好きこの花。がんばってね。」
 
と賑やかなんだけど、いつの間にか仲間同士のひそひそ話しになってしまい、
あながち寒いのは冷房の効きすぎのせいでもない。
 
ちょっと前、代理店の男がドンペリを持って現れた時は
「おおっー凄い、じゃあ乾杯!」と一時大いに盛り上がったものの、
その男の自慢気なフランス話に妙に座が白けてしまい、
より一層静かになってしまった。
 
それにしても遅いなアイツ。
30分位遅れるとは言ってたものの、かれこれ一時間になる。
田舎の高校時代の同期で同じスポーツサークル。
私はマネージャーだった。
 
家が同じ方向でよく一緒に帰った。
背は高くまあ格好いいし、悪くはないなと思ってはいたものの、
二人でラーメン食べる以上の仲にはならなかった。
 
久々の上京で母校の大学に顔を出してから来るなんて言っていたのに、
・・・・・・・来た!
相変わらず飄々として一時間遅れに悪びれる風でもなく、
開口一番、
「なんだよ、花屋にしちゃ色気ないなぁもっと若い子いないの。」
まったく「いいの、ここは飲み屋じゃないんだから。」
 
そして彼「はい、お土産」とケーキ箱を差し出した。
「なにこれ」蓋を開けてみると、懐かしい香りが広がった。
「味噌じゃない。」
 
「そうなんだよ、これがうまいんだ。キュウリに付けて食ってみな。」と、
カップの蓋を開けると、
野菜スティックで味噌をすくって差し出した。
 
「おいしい」
「だろ」
「うん、おいしい、おいしい」
少し塩辛さはあるものの、甘くてこくがあり、まろやかな口当たりで、
洋風の味に慣れた舌に妙に新鮮。
 
「学生の頃よく食べに入った店で味噌もいっぱいあって、
量り売りはカップに入れて売ってくれるんだ」
 
香りに誘われてか、一人二人と寄って来た。
 
「何、何、それ味噌?かわいい、アイスクリームみたい。」
「うまい」「うんおいしい」
「これって麦みそ?」「なつかしい」
 
「おれんちは昔から赤だしみそなんだ。」
「じゃ出身愛知?同じだ」「豆腐の田楽味噌うまいんだ」
 
「いや、なんたって味噌は越後だよ、米が違う。」
「いーーや、信州味噌が一番だよ。」
「ねえねえ、今度家でみそ汁パーティーしない?」
「それいいね」
 
周りがなんとなくざわついてきて、あちらこちらで笑い声が大きくなった。
名刺を出し合ったり、ビールを注ぎ合ったり、
ドンペリ男までが方言丸出しで大声で喋ってる。
 
部屋の温度が上がった。
 
そう言えば、アイツはどこへ行っちゃったのかしら・・・・・・
いたいた、この中の一番可愛い子捕まえて、鼻の下伸ばして喋ってる。
しっかり左手に味噌カップ持って。
 
そうね、今度私もその店とやらへ行ってみよう。
いい男つかまえて、うまい味噌料理作ってやろう。
こう見えても料理結構得意なんだから。
 
――――p-2飛ばしてのp-3これは結構気に入ってる文の一つです。
味噌って人の気持ちを解きほぐしてくれたりもするんですね。

2020-06-16 18:35:35

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「エピソード―3」

―――開店して最初に作ったパンフレット(リーフレット)
味噌のことばかりじゃ面白くないので、
味噌を題材にしたショートストーリーを
入れてみようとライターの人にシチュエーションだけ話して
作ってもらったのが気に入らなくて、
結局自分で書く事にしました。
出来た文章がこれです。
うまいへたは抜きにして昔から書くことは好きだったので
以後のリーフレットにも全部自分で書いて載せています。
とにかくデビュー作がこれです。
 
 
『味噌に乾杯p-1』
 
雨が上がって眩しい陽の光が、マンションの中にはっきりとした
コントラストを作り出していた。
「うん、今日あたり行ってみようかな」
今なら素直な気持ちで、やさしく話せるような気がした。
 
彼が1週間の海外出張。
義母とどうもうまくやっていける自信が無くて、結婚以来、
夫と二人暮らしの1年。
未だ夫の実家には一度も立ち寄ったことはなかった。
 
この街は気に入っていた。
駅から家までの15分、ふと気が付いた店があった。
「へえ、味噌ねえ」
ついぞ何年も使ったことがない。
 
昔実家の母は毎日作ってくれた。
とりわけ豆腐と油揚げの味噌汁は好きだった。
しかし、独り暮らしを始め自分で色々な料理を
作るようになって以来、全く使わなくなっていた。
嫌いになった訳ではない、ただ意識の内にないのだ。
 
その店の開かれたドアの奥にある白い陶器の中の味噌は
昔を思い起こさせた。
勧められるまま<信州白味噌>300グラムを
白いカップに入れてもらい買って帰った。
たった一つのレパートリー、豆腐と油揚げの味噌汁を作った。
彼が珍しく上機嫌になった。
「たまにはおふくろに会ってやれよ。」
 
それ以来味噌をよく使うようになった。
ブイヨンの代わりに味噌を使って牛肉と大根のポトフ、
鶏肉をニンニクとバターで炒め、
タラ、カニ、エビ、イカ、ムール貝を入れた
味噌味のブイヤベース、
白味噌のロールキャベツも作った。
 
勿論私の18番<デミグラスソースのビーフシチュー>
彼は大好きだ。いつも喧嘩などしたことない、が、
時に会話が上滑りしていると感じることもあった。
 
でも味噌を使った料理の時は、
なぜか会話が弾んだ、しっくりした。
そして優しくなれた。
なぜだろう。
時に義母の気持ちを思うこともある
今までなかったのに。
 
「じゃあ一度訪ねてみようかな」
気持ちが軽くなった。
お土産は、
義母の故郷仙台の『御用蔵味噌』に決めた。
 
 
―――もう27年も前に書いた文です。
これ以来ですか、どんな文章を書いても平気で
人前に出せるようになりました。
 
とまあこんな風に書きだしたブログが33年も前のことです!
ここで再再度リーフレットに書き込んだ文章を《みそオヤジの独り言》に載せて行きます。

2020-06-15 17:37:25

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「エピソード―2」

いやあ困りましたね新型コロナウィルス手ごわいです、stay homeもいい加減ウンザリです。
毎日通常通り店開けてますがお客様いらっしゃいません!味噌買いに来られる方一日10名くらい。『開いてて良かったあ』聞くとホットします。何せ一日話す人いないのでお客様来られるとついつい余計なことまで喋ってしまいがち、『この味噌屋の社長この前テレビ出てましたよね、ほら岡崎の新しい病院に例のクルーズ船の患者さん達が入った際地元の名産品でもてなして感謝された話の、、』とか『私が三越にいた時なんざ味噌といえばなんたって仙台味噌、御塩噌味噌と言って伊達政宗公が青葉城内に味噌蔵を立ててそこで味噌を造らせていたと言う由緒ある味噌、そいつが売れに売れていたもんです。』なんてどうでもいい事ばかり、、、そして毎日暇なのでコーヒーばかり飲んでます。
 とここでがっかりなお知らせ!
30年の長きに渡って皆様にご愛用されていた広島の辛子糀味噌が終売になってしまいます。
1か月半前にメーカー側からの一方的な生産終了通知にビックリ、当社だけの販売商品だったのですが、普通ならロット数量をもっと上げろとか仕切り価格を上げろとか言うのが一般的だと思うのですが一切なし、とにかくもう造れませんの一点張り。最初は原料が間に合わないーーーな訳ないだろーー、最終的には手作業でやってるので人手がなく出来ない、とのことでした。昨日今日できた味噌じゃあないので、少なくとも3か月位は余裕もってくれてもいいかとは思いますが、50㎏注文した2日後にそれも送らないまま終了ですとはあまりに乱暴な話ではありませんか!企業の姿勢を疑いたくなります。
でもその時点で在庫0の状態でしたので無理やり頼んで後50kg入れてもらうことにして先日入荷しました。
この味噌については色々なエピソードがあります。
10年前にブログで紹介した話がありますのでここにまた載せてみようと思います。
 
とまあ杖を突きながら500gカップの味噌二つを持ちつつゆっくりゆっくり歩いて帰られる後ろ姿今でも忘れられません。
ことの初めは長野のメーカーで造っていた辛子味噌がもう造らなくなって当時営業に来ていた広島のメーカーさんに頼んで同じような辛子味噌を造ってもらう様になりました。この味噌が延々と売れ続き新宿三越でも販売していてそこで決まって買われていたお客の話です。他にもこの味噌のファンの方大勢いらっしゃいます。
中甘口の味噌に唐辛子とか練りこんであるのですがパフォーマンスが凄い、豚汁最高、炒めものOK、マヨネーズと味醂でディップに当店ではベーコンとコンソメ味で洋風スープにとこれに代わる味噌はそうはありません。
松本の五穀味噌の終売に関しても多くのファンの方ガッカリされたことでしたが、今回はその比ではありません。何しろ1年で1t(1000kg)以上売り上げてる商品ですからご利用のお客様数百人いらっしゃるかと思います。この時期だからこそご来店控えておられる方多いと推察しますが生活が戻ってきて買いに来られてありませんと申し上げたらどんなお叱りを受けるか、気が気ではありません。
さあこれからどうなりますことやら、しつこく生産をお願いするか、他社に同じような味噌造ってもらうか、検討中であります。

2020-05-22 13:29:02

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「エピソード―1」

もう10年以上も前のことです。
 
一本の電話が入りまして、この店に来たいから、場所を教えてくれと。
男性の結構年配の方でした。吉祥寺は知らないとおっしゃるので、
丁寧にご案内しました。
 
しばらくすると、杖を突いてゆっくりゆっくり歩いて来られたおじいさん、
「やっと来られた、何せおたくの新宿三越店で買っていた味噌が欲しくても、
店がなくなってしまって買えないじゃないか、しようがないから、
その味噌を探して東京中のデパート全部行ったよ」
 
「だけどどこにも無い、そんな味噌は知りません、なんて言いやがる。」
「困ってもう一度新宿三越で聞いたら、たまたま知ってる店員さんがいて、
吉祥寺でやってるって言うんで、電話番号聞教えてもらって、
やっとの思いで来たんだよ。」
 
――――それはもうわざわざありがとうございます。
 
「そうだよこの味噌だよ、」
「これが気に入って、三越にある間ずーっと買っていたんじゃ。」
「ばあさんも大好きで、どうしてもこの味噌じゃないと駄目だ、なんて言うんだよ」
「もっと早くに聞いておけば良かった。」
 
――――じゃあ、500gひとつお作りします。
「いや、ふたつ作ってくれ」
 
「ひとつは、ばあさんの仏壇に供えるから」
――――  ・・・・・・・・・
 
――――いつお亡くなりになったんですか。
「今日でちょうど一ヶ月だよ」
「ばあさん、今夜は久々、辛子の味噌汁食べような。」
おじいさんの目から涙。
 
こちらもついもらい泣きしてしまいました。
 
大事そうに味噌をかかえて、またゆっくりゆっくり杖を突いて
帰って行かれる姿は忘れられません。
 
都内ある町の大きな文房具屋のご隠居さん、ということでした。
 
 
まあこんなエピソードもある『広島辛子糀味噌』です

2020-05-20 11:44:24

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