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『壁の穴』

『壁の穴』

<ミャーオー、ミャーオー>
店に帰って来ると、ちょうどベンチシートの裏側、
壁の後ろから猫の鳴き声、しかも子猫。
「おい、猫鳴いてるぞ、この奥」
 
「はい、そうなんです。昼はキッチンの天井裏で鳴いていたんですが、
歩いてて落っこちたみたいなんです。よく平気ですよね、
それにこんな狭い所じゃ親猫も助けられないですよね。」
 
ちょうどうちと隣のブティックの間が10cm位お互いの壁の間に隙間がある。
その隙間に天井裏から落ちたらしい。
 
親猫がくわえて上ることもできないしましてや子猫が独自で這い上がることも
全くもって不可能。今は元気に鳴いていてもその内放っておけば、
そうだよ、必ず死んでしまう。間違いなく。
参ったな。
 
「しょうがねえな、穴開けるぞ。ちょっと手伝え」
ベンチシートを手前に引き出し、泣き声する当りにカッターナイフを差し込む。
カチッ刃が折れた。結構堅い、何度か刺して引いて少しずつ切れてきた。
10cm四方の穴を開けてみる。
が居ない。
 
どうももっと右らしい。1メートル右に又穴を開ける、やはり居ない。
間に柱があって手が入っていかない。泣き声は柱の向こうだ。
相変わらず鳴き続いている、が心なし弱って来ているみたい。
じゃあこの間しかない。三つ目の穴を開ける。
 
<ミャーオー>声が響いた。
「ここだ、お前手小さいからこの穴から突っ込んでみろ」
「きゃあ、いました!ちっちゃい」
「そのまま、引っ張り出せ」
 
女性スタッフの小さな手の上で、まだ目も開かない子猫が震えている。
<ミヤーオー、ミヤーオー>柄に似合わずデカイ声で鳴いている。
「ようし、じゃあミルクだ」
 
牛乳をティッシュに含ませて口に当ててやる、
が、吸おうともしない。水でもダメ。
相変わらず震えながら<ミヤア、ミヤアー>鳴くばかり。
「親猫を呼んでんじゃない?」
 
それではと、味噌の空ダンボールに入れて、店の裏、
人気のない空き地に置いてみる。
子猫は声張り上げて鳴いているものの親猫現れる気配も無い。
 
「どーするよ、もうかれこれ一時間、親来ねーぜ」
やっぱ死んじゃうのかな。
 
スタッフの一人が言った。
「分かりました、友達に一人獣医やってるのがいます。
国分寺ですけど電話してみます。」
夜10時過ぎで迷惑な話ではあるけど仕方ない。
 
「連絡とれました。猫持って来れば預かってくれるそうです。
これから帰る途中置いてきます。」
「そうか、すまんな、よろしく言ってくれ。」
 
一週間が過ぎた。
「そういえば、この前の子猫どうした、聞いてみたか?」
「はい、昨日連絡がありました。さすが獣医ですね、
暫くすると元気になって、
そうしたら里親が見つかって、もらわれて行ったそうです。
元気にしてると思いますよ、よかったです。」
 
ほんと人騒がせな猫だよ、ヤレヤレ。
おかげで、シートをずらすと壁の下の方に
ガムテープで貼った四角い穴が三つ並んでいる。
 
―――これは現在使っているリーフレットに載せている話です。何年か前の実話です。
 

2020-06-29 11:15:16

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