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「エピソード―5」

「エピソード―5」

《味噌に乾杯p-4》

『女子学生会館』

<あれ、こんな所に女子学生会館がある。
おっかしいな3年間ずーっとこの道通ってるのにどうして気が付かなかったんだろう>
と思いつつ公園に通じる小さな商店街を車で通り抜けた。 
そしてその日の午後4時、一人のアルバイトの面接をした。
「へええ、公園通り三丁目て言うと、いつも通る道だ。あの辺に女子学生会館あるよね。朝通ったんだ。」
「はい、その学生会館に住んでいます。」
「へえー、偶然だねー。あんな所にあったなんて知らなかった。今朝初めて気が付いたんだよ」

明るく、快活で物怖じしない元気さが気に入って、次の日から働いてもらうことにした。
仕事の覚えも早く、「いらっしゃいませ!」とにかくよく声が出る。
対応もはきはきして、お客とも笑いながら会話が弾んでいる。若いのに珍しい。

「この味噌少し貰っていいですか。みそ汁にして味見てみたいんです。」
とにかく味噌に興味があるらしい。
そしてお客にも「この味噌おいしいですよ。豚汁にしてみたんですがすごく合います。」 

「かわいい子入ったね。明るくて良い子だ。」お客の受けは実に良い。
夜見るからだろうか、肌の色が白く透き通っている。しかし化粧っ気は全然ない。ショートカットで笑うと
えくぼができる。手がきれい。すらっとしてよくTVのコマーシャルに出てくる手よりきれいな位だ。
ある時、食器を手渡しして思わず触ったことがある。どきっとした。
「随分冷たい手だね。」
「はい、でもその分ハートは熱いんです。」笑いながら応えた。

面接で聞いたことがある。
「どうして、味噌屋で働く気になったの?」
「家が佐賀の小さなお寺で昔から味噌造ってて好きだったから。
でもここには佐賀の味噌を置いてないので残念。美味しいのに、今度置いて下さい。」
「お寺の娘さんとは、珍しいね。」なんでも古くからあって、由緒あるお寺らしい。
シフトは必ず夜だけ。昼は学校があって、けっこう宿題なんかも多いらしい。
「土、日たまに昼はできない?」聞いても、
笑いながら「だめなんです」

そして必ず何も持たないで店にやってくる。
「あれ、カバンとか、ハンドバッグ持って来ないの?」
「はいっ、近いからこれだけあればいいんです。」とジーパンのポケットから出した100円玉を見せた。
近くても電車に乗る訳だし、普通年頃の女の子なら、せめてポーチ位下げてくるのに、不思議な子だ。
仕事が終わると10時までに帰らなくっちゃ、と飛ぶように走って帰った。 

数ヶ月が過ぎて3月も終わりの頃、
「今度のお給料、暫く旅行に出るので、実家に送って下さい。また帰ってきたら仕事させて下さい。」
何時帰ってくるともはっきり言わないで、そのまま居なくなった。

給料は現金封筒に入れて、実家のお父さん宛に出した。
1週間して、封書が届いた。佐賀からだった。 

<突然の現金封筒に驚いています。どういう経緯で娘にお金を届けて下さったのか、
アルバイト代と書いてありましたが、いつから働いていたのか、いつまでいたのか、
多分何かの間違いかと思います。>
と言うような事が達筆な筆書きで記してあった。

そして最後には、「家の娘は2年前事故で亡くなりました。」と。

うっそー、そんなあ、じゃあ彼女は、、、嘘そんな訳は絶対ない。あんな元気な子が、...幽霊?

住職であるお父さんは、彼女が亡くなって以来、夜10時には必ずお経を上げていると言う。 そう言えば思い当たる節も、
そう必ず夜しか働かない。しかも10時には必ず帰る。財布も持ってない、かばんも。異常に色が白い。 

そして更にもう一つ確かなことがある。
彼女の面接の朝以来、毎朝晩その前を通って来た公園通り3丁目の女子学生会館が、
彼女が居なくなったその日から見当たらない。
確かこの辺だったと、何回見てもない。
遂に車から降りて、商店の人に聞いた。

「ああ、あったよ昔は、でも2年くらい前かな、事故かなんかあってから、学生入んなくなって、 取り壊して違うビル建ってるよ。」 
「..........」

又帰って来ると言ってた。ひょっとしてそうなるかも知れない。
いいよ、帰って来いよ、元気な声聞きたいよ。そうだ佐賀の味噌、仕入れてみようかな。

どこかで彼女の笑い声が聞こえてきそうな
........、そして公園の桜が満開になった。

――――過去のリーフレットで一番受けた文章です。「えーーっこれって本当の話ですか!?」
「はい、半分は本当です、後半は創作です!」
この続きの話も読んで下さい。 

2020-06-19 11:06:57

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